第2章 番いの弱者

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そして、わたしが今いるこのベッドルームにはなぜか2つもベッドが存在した。 わたしと馨さんがそれぞれベッドを使うのにはいいが、普段は一人ぐらしである様子の馨さんにはまるで似合っていない。 その馨さんはまだ寝ないらしく、わたしは一人で布団に入り、さきに眠りについたのだった。 ? 眠りについてから暫[しばら]くの時間が経って、ふとわたしは目を覚ました。 まだリビングのほうから話し声が聞こえる。 髪木と馨さんがなにかを話し合っているらしい。 時計を見ればもう夜中の3時だ。 わたしは体を動かさずに耳だけを傾ける。 「あっ………おやすみ髪木。私、もう寝るね」 すると馨さんの足音が近づいてくる。 ベッドルームに入ってきた馨さんはわたしの寝るベッドに腰を掛け、頭を撫でながら小さな声で呟いた。 「天照の神様、どうかこの子をお守りください。どうか禍[わざわい]からお護りください。どうか恙[つつが]からお衛りください」 その優しい声。 わたしには馨さんが神様のように思えた。 もしくは聖母マリアに比喩できるか。 すごく心が澄みわたる。 わたしは『冷静』などとは別に、心のそこから安心感に包まれたのだった。 そして、朝だ。 気がつけば日が明けて、眩しい朝日が部屋に射し込んでいた。 いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
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