第2章 番いの弱者

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「あれ、あんた下校のときも居たの!?気付かなかったわ」 帰りには一度も見たことがない。 「まぁね。夕方は朝よりも輩が多かったから、存在感をほとんど失うまで霊力を使ってたのもあるし。僕だっていつでも優先座席に座れる訳でもないしね。 「そして三週間経ったある日、いつもの電車の時刻でパンデモニウムが起きたんだ。それは百鬼夜行[ひゃっきやぎょう]のようなもので、妖怪の一斉集中が町全体に発生することが全日に機関の調査によって判明したんだ。 「僕は機関の上司に応援を要請したんだけど手の空いてる術師がいなくて結局僕だけで当たることになったんだ。 「そして仕方ないから当日急遽飛鳥様のいる学校に転校生というかたちで入学して常に監視させてもらっていたんだけど。 「ただその日、即[すなわ]ち昨日は飛鳥様の空手の練習がいつもより早く終わったよね。黄昏時。ちょうどその時刻に終わってしまって、タイミングとしては最悪だったんだ。だから、やむを得ず飛鳥様に直接接触することにした」 「でも髪木、あんたなんで神柳高校に来る前から制服がこの高校のものだったのよ。っていうかそもそもあんたは高校には通ってないの?」 「通ってないよ、制服を着てたのは怪しまれないため。朝から僕の童顔でスーツ着て会社員を装えるはずもないし、だからといって私服だと学校をサボってる高校生か中学生に見られて通報されてしまうかもしれない。 「でも学生服だったら飛鳥様と同じ登校時間に電車に乗るわけだから怪しまれずに済むよね。 「僕は飛鳥様と同い年だけど、元々高校には行ってないんだ。高校受験すら受けてないよ。 「そして今回の出来事は僕も飛鳥様と同じなんだよ。飛鳥様と同じように、もとは普通の男子中学生の、普通の人間だったんだ」 にわかに髪木の声のトーンが下がる。 「なのに。あの日僕は意図しないかたちで人間ではないものに取り憑かれてしまったんだ」
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