第1章 生憎

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空手の練習はいつもより早く終わり、日が暮れるまでに学校をでることができた。 わたしは来たときと同じ駅までいき、帰りの電車がくるのを待っていた。 駅は最近新しく建てかえられたのか、色々なものが新しさ独特のいろを見せている。 駅のホームにはサクラの木が一本植えられていて、いまはもう花は散ってミドリの葉が顔をのぞかせていた。 なんて語りは嘘で、 椅子に座って携帯をいじるわたしには、全くそんなものは目に入ってなかった。 なんというか、そういうのに興味ないのがわたしなのだ。 そりゃ、サクラ満開だった入学式当日は心踊らせていた自分はいたが、いまになって花びらが散ってしまえば、サクラの木などに目が奪われるようなことは決してない。 むしろ、木の枝やなんかにはやたらと毛虫がひっついていて、きもち悪くて自然と目を逸らしている状態だった。 「飛鳥様」 ふと、わたしの座る椅子のよこで声がした。 髪木?どうしてこんな時間に!? 今日来たばかりなら部活なんかあるはずないし。 「突然でよく分からないと思うけど今からいう僕の言葉を聞いてほしいんだ」 えっ、ちょっと待って、まさか告白!? そんなまだ心の準備ができてないって!! え!!違う? 「今日は電車に乗らずに帰って」 「………え?」 「飛鳥様は電車に乗ったら駄目だよ。今日だけは特にまずいんだ。お金持ってないなら貸すからタクシー呼んで帰って。できれば明日の朝も電車は使わないほうがいい。理解できないと思うけどそれでいいから。今ここで僕の言うことに従わなければ飛鳥様が危険なんだよ」 「な、なに言ってんのよ。なんであんたのいう通りにしなきゃなんないの。わたしをからかってるの?わたしにはあんたの言う危険の意味が分からないわ」 「そのままの意味だよ。死ぬんだよ。飛鳥様はこのまま電車に乗ると命脈を乗っ取られることになる。だから僕がそれを防ごうと飛鳥様に危険が迫っていることを諭[さと]そうとしているんだ」
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