第1章 生憎

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そうしている間に帰りの電車がやってきた。 この子が言いたいことは一万歩譲ってよく分かった。 ただ、そんな中二病なんかに付き合ってられるはずないじゃない。 やっぱりこの子おかしい。 不気味だし、発言は異常だし、まずいことに巻き込まれそうで怖い。 だけど、ここで断ったらなんか嫌悪されそうだし。 嫌悪されることだけならまだ気にしないけど、こういう子はそれだけのことで止まるかどうか分からない。 嫌悪が憎悪に変わることなんてよくあることだ。 でも………。 「わたし、あんたの言うこと聞けないから。わたしはこのまま電車に乗って帰る。じゃあね髪木。明日も電車に乗ってくるわ」 そういい、わたしは電車に乗り込もうとする。 すると髪木がすらりとわたしの前にでて、通せんぼする。 「通さないよ。飛鳥様は僕が守るんだ。それ以外の結果は認められないよ」 「なに勝手なこと言ってんのよ。退かないとあんたの首をへし折らせてもらうわ。それでもいいの?」 「できないよ、そんこと。飛鳥様は僕に指一本触れることすらできない」 「知らないみたいだから教えてやるけど、わたし、空手で全国トップレベルの実力をもってるの。お前みたいな貧弱なガキなら指だけで腕のほねを折ってあげれるわ!!」 「だから無理なんだよ。そんなこと理屈に合わない」 「そう、もうまったく退[ひ]く気なさそうだし。そろそろ攻撃に移らせてもらうわ。ただ本当にほねを折っちゃうと色々まずいから、腹蹴って血をすこし吐くくらいにしといてあげる」 っと言い終わるが先か、わたしは髪木のみぞうちに一発、それでも手加減した膝蹴りをくらわせてやった。 「ぐはっ!!……なんで……」 髪木は地面に崩れおちる。 「こらっ!なにしてるんだ!!」 駅員がそれに気付きかけよってくる。 わたしは言い訳を即座に考えだし、その駅員に話そうとした。 しかし、驚いたことに血を吐くことなく髪木は立ち上がりその駅員にかすれた声で釈明しはじめた。 「き、気にしないで……ください。ただの…兄弟喧嘩ですから…なにも…問題ないですから」 「どこがだ、全然だめだろ!!」 「本当に大丈夫です。心配してくれてありがとうございます」 すると髪木は本当にすっと立ち上がり、なにごともなかったかのように笑ってみせた。 これは演技じゃない。 完全に痛みが消え去っているようだ。
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