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彼女の話を黙って聞いていると、僕は自分の母さんの事を思い出した。母さんはガンで、今も必死にガンと戦っている。その母さんが言った。「私は皆と会えて幸せよ、だからずっと、私の事覚えておいてくれるかしら」。母さんの言葉と彼女の言葉が、重なって、僕はなんだか虚しくなった。
「あっ、見えた。あそこ」と彼女が一枚の鏡を指差した。「あれが次のページの入り口。まぁ、まだ無いのだけれど」
「あそこを通れば帰れるのかな?」
「多分ね」
彼女は僕の後ろに周り、背中を押してきた。徐々に鏡が迫る。僕は鏡に手を伸ばし、触れようとする。
「また会えるだろうか?」
「どうかな?戻ったらここでの事は全部忘れるだろうし、会えたとしても、初対面だよ」
「それでも構わないさ。初対面でも、またこうして話せるのなら、それは幸福な事だよ」
「……そうかもね」
「そうだとも」と、僕は鏡に手を触れた。光が僕の身体を包み込み、儚く、静かに消えていった。
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