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病室から出て、曲がり角を曲がろうとすると、人をぶつかった。小学生くらいの女の子だった。
女の子は手に持っていたスケッチブックを落とし、尻餅をついた。
「ごめん、大丈夫?怪我はない?」
「はい大丈夫です」と女の子はすくっと立ち上がって、開かれたスケッチブックを拾おうとした。
そのスケッチブックには綺麗な絵が描いてあった。満開の星空で、親子らしき二人が星を見上げている。
「それは君が描いたの?」
「うん」と彼女は頷いた。
「上手だね。僕ではこうは描けない」
「お兄さんは……」と女の子は弱々しい声でいった。まるで久しぶりに人とまともに喋ったような感じった。「お兄さんならどんな絵本を描くの?」
「うーん。分からないけど、僕が描いたら儚い物語になりそうだね」
「読んでみたい」
「え?そうかい?なら今度描いてこようか?」
「本当に?」
「本当に」と僕がいうと、女の子は嬉しそうに微笑んだ。そして右手を出し、小指を僕に向ける。
僕は自分の小指を女の子の小指に絡め、指切りをした。
「それでは約束だ」
「うん、また今度ね」と、女の子はどこかへ駆けていった。女の子の母親らしき女性が、女の子を抱え、安堵の表情を見せている。
僕は、初めて会った、名前を知らない女の子と、再会の約束をした。今から絵本を描いて、何日で出来るだろうと思いながら、飲み物を買いに向かった。
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