月の夜

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頷き、私は宗太郎の胸にピタリと額を寄せる。 トクン…トクンと、命を刻む音がした。 ……いつか。 いや、近い将来に。 別れはやってくる。 確実に。 無性に泣きたくなった。 音も無く降り注ぐ、冴え冴えとした月明かりに。 救いをもとめた。 この月明かりが私達の道を清めてはくれないだろうか。 その透き通る光が… 私達を赦してはくれないだろうか。 罪をーーー、 「…月に願っても聞き入れてはもらえないよ」 私の思考を読み取ったように、 宗太郎が囁く。 仰ぐと、同じように宗太郎も祈るような顔をしていた。 「俺達の禁忌の道を明るみに照らし出すだけだ」 悲しみに寄り添うように、 再び宗太郎の胸に額を預けた。 しなやかに強く…抱きしめられる。 「……最期まで傍にいて」 私は何度も頷いて、宗太郎の背中に腕を回した。 涙は、 後から後から溢れて。 宗太郎の胸元を濡らす。 月明かりの美しいーーー 夜のこと… 宗太郎と私が、 ただの兄と妹ではなくなったと同時に、 最期の時への秒読みが始まった… 静かな夜の、出来事だった。
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