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「おい! 終礼前に帰るなよぅ、阿田」
「やるべきことは早々に……だ。多々良」
学校からの帰路の途中、阿田を追うように息を切らしながら声を上げる多々良と、それに答える阿田。閑静な住宅街の数歩先にはこの場所に似つかわしくない一軒の弁当屋がひっそりと建っていた。
「もうお前の座右の銘は聞き飽きた!」
「そう言うなって、いいもんだぞ? 自分に忠実になれるからな」
「それって……ただのご都合主義なだけじゃないか?」
「軸がぶれている奴よりかは幾分も増しだろう」
「全く――口だけは相変わらず達者だな」
「…………違いないな」大袈裟に息を切らしているようにも見える多々良の表情は至ってそれ相応の面であり、阿田は
「ったく……」
と溜息を付きながらも多々良の通学鞄をひったくって左肩に掛けた。
「悪いな、いつも」
「こっちこそ」
と何時も通りの帰り道を歩いていくなか、二人は道のやや中央寄りを歩いていた。
帰路まであと数十メートル。
阿田と多々良は弁当屋に向かっていつも通りのらりくらりと、歩幅を変えることの無く歩き続けた。
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