7-微かな崩壊の音

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「怜一郎さんのことが好きだから」   それは心からの言葉。 でも、口に出すのは初めてだった。   あたしは、結人さんの目を見てはっきり告げた。 すると、結人さんはふっと笑って言った。 「怜一郎は、幸せ者だ」   よく言われる言葉だが、いつものように茶化した風じゃない。 結人さんは真剣な目をしたまま、あたしの髪に触れた。 「…ねぇ、俺がもし――」   しかし、それきり言葉を切って、結人さんはあたしに背を向けてしまう。 「今日はね、ここの片づけをしようと思ってきたんだ」   急に変わった話に、頭がついていけず戸惑った。 結人さんは上着を脱いでいつもの着物姿に戻ると、こちらを振り返った。 「手伝ってくれる?」   その時の結人さんの笑顔はいつもの笑顔で、あたしはほっとした。 「…自分たちでするんですか?」   …だめだ。 あたしもすっかり怜一郎さんのスケールに慣れてしまったらしい。 「うん。 ここだけは、他の人に入って欲しくないから」   そう言いながらテーブルを指でなでる。 わずかだが黒い物がついてしまったようで、結人さんはかるく眉を寄せた。 「…あたしは、いいんだ」   そんな様子を見ながら、思わずあたしの口からこぼれた言葉は、結人さんには聞こえなかったようだ。 「夏になったら、3人でここ来ようよ」   結人さんは独り言のようにそう呟いて、さっさと作業をはじめてしまう。 あたしは、慌ててそれに従った。
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