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あたし達は、あれから突っ込んだ話をすることもなく片付けを進めた。
といっても、ほとんどものもない部屋だったので、掃除が大半だった。
結人さんの意外と慣れた様子に驚いたものの、作業は昼過ぎには終わってしまった。
その間あたし達は、なにが好きでなにが嫌いだとか、そんな当たり障りのない話をした。
思いがけず音楽の趣味が合ったことには驚いたけれど。
作業を終え、掃除の後だからということでシャワーを借りた後、あたしと結人さんはベランダで話し込んだ。
結人さんと話すのは普通に好きだ。誰かさんみたいに意地悪なこと言わないし、以外と話合うし、おもしろいから。
気がつくと外は夕焼けに赤く染まっていて、結人さんが「そろそろ帰ろうか」と言った。
あたし達はそのまま朝と反対向きの電車で帰った。
家に着くと、結人さんはもうすぐ帰るからと言って荷物をまとめ始めた。
もう少しで怜一郎さんも帰ってくるはずだし、待っていたらどうかと引き留めるあたしに、いいからと言って結人さんがゲストルームから出て行こうとしていた時、外で車のエンジンの音がした。
しばらくするとドアの閉まる音がして、次いで、玄関で声が聞こえ始める。
怜一郎さんの帰宅だ。
「…間に合わなかったな」
なにが、と訊く間もなかった。
結人さんはキャリーを手に階段を降りていった。
あたしもそれに倣う。
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