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「…なんだ、結人、来てたのか」
階段を降りると、怜一郎さんの声が聞こえてきた。
ふたりは笑いながら、なにやら冗談を言っている。
なんだ、いつも通りだ。
あたしはほっとした。
「じゃあ、俺はもう行くね」
結人さんはそう言うと、玄関に降り立った。
その様子を怜一郎さんも不審に思ったようで、せめて食事をしていくよう引き留めたのだが、結人さんは夫婦の邪魔をしたくないと言ってそのまま扉を開け行ってしまう。
「…あいつ、どうしたんだ?」
そう怜一郎さんは訪ねてくるが、そんなのあたしの方が訊きたい。
わからない、と首を傾げたところで、ふとあることを思い出した。
昼間のことだ。
ずっと気になっていたことがある。
結人さんは昼間、あたしになにかを言いかけた。
けど、結局言葉を切ってしまった。
あの時、彼はなにを言おうとしていたのだろう?
「…ごめん、訊きそびれてたことがあった」
気になりはじめては仕方がない。
後から訊いては忘れてしまってたり、そうではなくてもはぐらかされてしまうかもしれない。
…あたしは、結人さんの後を追って扉を開けた。
「結人さんっ!」
まだ車に乗る前だったらしく、呼ぶと結人さんはあっさりこちらを向いた。
あたしはそれに駆け寄り、息を整えてから思い切って訊いた。
「…昼間のこと、訊きたくて」
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