7-微かな崩壊の音

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訊くと、結人さんは予想通り「なんのこと?」とはぐらかしてきた。 あたしは、思い切って尋ねる。 「なんか、言いかけたじゃないですか。 “俺がもし”…。 あれって、なんて言うつもりだったんですか?」   一瞬、結人さんの顔からあの柔和な笑顔が消えた。 冷たい瞳に、不安そうな顔をしたあたしの姿が映っている。   結人さんは目を閉じて、息をついて。 そして、口を開いた。 「あんちゃんさ、もし俺の方が先に会ってたら、俺のことも見てくれた?」   静かな風が、あたし達の間を抜けていく。   あたしははじめ、結人さんがなにを言っているのかわからなかった。 一瞬であったはずの静寂は、とてつもなく長いものにさえ感じられた。 「…そんなこと…」   わからない。 あたしだって、そもそも怜一郎さんのことが好きで結婚したわけじゃないんだから。 お父さんの借金がきつくて、それを、怜一郎さんが助けてくれるって言うから。 なかば脅迫とも言える形で、あたしは怜一郎さんの持ちかけた契約をお金と生活のために受け入れた。   あの契約の中に、感情なんてないはずだった。   でもあたしは今、怜一郎さんのことを大切に思っている。 これを恋愛感情だと言っていいのか、あたしにはわからない。 もしかしたら流されているだけなのかもしれない。 一緒に夫婦として暮らして、それで、勘違いを起こしているだけなのかもしれない。   …それでも、怜一郎さんといる時間を大切に思っているこの気持ちだけは本物だ。 怜一郎さんと共に過ごして、幸せを感じている自分がいることも。
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