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「…そんな質問、卑怯」
あたしの言葉に、結人さんは笑った。
急に笑い出す結人さんに、あたしは怒りもせず、ただ黙って見ていた。
結人さんは笑っている。
笑っているはずなのに。
…その声を悲しいものだと感じ、胸が締めつけられるのはなぜだろう?
「…あぁ、一緒だ」
笑い声の合間に、結人さんは自嘲気味に呟いた。
なにが一緒なのか訊こうと開けた唇に、なにかが触れる。
…それは、2度目のくちづけ。
触れるだけのくちづけは、静かに終わり、現実味をなさない。
ただ静かに結人さんの目を見つめ返すあたしに、彼は笑いかけたようだった。
「あんちゃんがいけないんだよ?」
少し背をかがめて、こちらを覗きこむ。
結人さんの色素の薄い瞳の中に、戸惑うあたしの顔が映る。
「…どうして…」
どうして、あたしを惑わせるようなことばかりするの。
「ごめんね…」
ひどいことをされたのはあたしの方なのに。
どうして、結人さんがそんな顔をするの。
謝る結人さんは、なんだか今にも泣きそうな顔をしていた。
あたしは、そんな結人さんに返す言葉が見当たらず、戸惑う。
その隙に、結人さんはあたしに背を向けていた。
あたしがかける言葉を見つけるより先に、「またね」と言って、車に乗ってしまう。
結人さんを乗せた車は、あっという間に見えなくなってしまった。
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