1-はじまりはひとつの嘘

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「よろこんでくれた?」 「は、はい…」 「じゃあ、つけてきてよ」 優しいけれど、どこか逆らい難い九条さんの言い方に、思わず頷きかけて、あたしはすんでのところではっと我に返った。 「で、でもあたし、ピアスホール開けてないんです、ほら」   恥ずかしいと思いながらも、髪をどけて耳たぶを見せる。 事実、ピアスホールを開けたことなんてなかった。 …あたしは、絶対にピアスホールなんて開けられないから… 「ん?  …知ってたよ、そんなこと」 「え」   思いがけない返答に、あたしは戸惑って九条さんを見つめた。 「じゃあ、どうしてピアスなんか…」 「えっとね」   あ、と思った時には、もうすでに肩を抱き寄せられていた。 背中に、ぬくもりを感じる。 熱い吐息が耳にかかって、あたしは動けなくなってしまった。 いくら人が少なくなったとはいえ、 大森さんと下川さん、 それから受付のお姉さんや、 警備員のおじさんはまだいるのに、 こんなの、絶対にだめだ…   そうは思っても、体が動かない。
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