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柔らかな光が窓から降り注ぐ書斎で本を読むのが、健次郎の最近のお気に入りである。
じんわりと肩を暖める日の光が物語へ誘(いざな)ってくれるような、そんな心地で読み進められる。
しかし、
「ケンさん!健次郎さん!」
喧しいミカの声に、健次郎の読書は今日も中断された。
溜め息をつきながら栞を挟み、本を片手に店の方へ向かう。
店の棚に置いてある腕時計と格闘しているミカが居た。
小さなはたきで応戦しているようだが、腕時計はミカに負けず劣らず短気なので収集がつかない。
何故掃除をしていて喧嘩になるのかは、健次郎にはさっぱり解らない。
腕時計を宥めて静かにさせて、腕時計を一段上の棚に移動させた。
「今日は何ですか、ミカさん」
「少しは自分で御掃除してくれない?埃っぽいって何度言ったらケンさんは解ってくれるの?」
「君も何度言ったら解ってくれるのでしょうか。僕はまだ気にならないから掃除をしないのです」
やれやれ、とぼやきながら健次郎は番台の席に座って本を広げた。
小さなはたきを健次郎に向け、ミカは続ける。
「此処は貴方の書斎じゃないの、清め屋なの。本を読んでいる店番なんて見たことが無いわ」
「おや、良かったですね。君の目の前にいますよ」
ボサボサの髪を掻きながら、しれっと答える。
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