受け継がれし記憶

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少しだけ長い並木道を抜けると、小、中、高が共用する裏庭が広がる。 中央辺りには大きな噴水、色とりどりの花が咲き並ぶ花壇、遊具は無いにしろ到る所にベンチがあり、各学年の生徒たちがお昼休みを過ごしていた。 「今日は空きが無いんじゃないか?」 葎の言葉に三人は辺りを見渡す。 「ありゃ…その辺に座って食べますかい?」 「敷物があれば良いんだけどな…」 よく見れば、ベンチだけでなく、敷物まで持参して食事を取る生徒の姿まである。 もうすぐ梅雨時…ジメジメとした空気の中、頻りに降り続ける雨で人の心を憂鬱にさせる…そんな日々を目前とした今日のこの快晴を、今の内に堪能しようとする生徒でいっぱいなのかもしれない。 「葎は…弁当?」 「いいや、パンだが?」 「飛鳥と響は弁当だよね?」 「えぇ」 「飛鳥の弁当~♪」 ならば、場所を変えて食堂か教室… そんな事を考えていると、突然何かが腰にしがみついてきた。 「っ!?…」 「…咲姉!」 「羅壱」 見下ろすと初等部三年に在席する舞咲の妹、三谷羅壱(みたにらいち)が嬉しそうに屈託の無い笑顔で見上げていた。 やわらかな風に揺れる羅壱の少し赤みがかったショートヘアーにそっと手を添える舞咲。 「どうした?」 「あのね…ご飯一緒に食べよ!」 「まだ食べてないの?」 少しやわらかい口調になっている事に気付く…可愛い妹だからなのだろうか…。 「あっ!!静那だ!」
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