受け継がれし記憶

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初等部の頃、一際目立つ程元気の良い女の子が居た。 いつでもどんな時でも決して笑顔を絶やさず、周りまでもを笑顔にさせる…それが静那だ。 そんな姿は舞咲にとっては眩しすぎるもので、近付く事すら拒絶していた。 そんなある日の放課後、当時まだ存在していた旧校舎の近くを通りかかった時だ。 「ぐすっ…」 「………!」 立ち入り禁止の立て札があるにも関わらず、旧校舎の外壁に触れながら泣いていた静那を見つけた。 その瞬間旧校舎全体の雰囲気が重く、周りの木々がざわめき、禍々しい空気を感じた。 しかし、静那の涙が流れる度にそれが浄化されていく様に、辺りに静けさが拡がる…それはとても不思議な様子だった。 静那が泣いているからなのか、もしくは別の何かなのか…幼き頃の舞咲には何も解らなかったし、成長した今でも解らない…。 ただ一つ、その涙で舞咲の心はかき乱されていたんだ。 「…誰?」 舞咲の存在に気付いた静那は、とっさに涙を袖口で拭い深呼吸をした。 「見た?…」 「…………」 舞咲は何も答えず、静那に歩み寄り手を取る。 細く小さな手、華奢な身体、赤くなった鼻と瞳…舞咲は何も言わずに見つめた。 そして思った。 一人で一体何を背負っているのかと…。 「君、喋れないの?」 「…喋れる」 「………変なの!」 そう言って静那が笑った瞬間、さっきとは違う…とても優しくて心が温かくなる様な穏やかな雰囲気に変わった…。 「…………」 感情一つ一つで周りが変わる…そんな不思議な少女静那と出会い、声をかけられる事はあっても、舞咲から声をかける事は無かった…。 ただ怖いのだ。 自分の言葉で静那を傷付けてしまうかもしれないという事が…。 なのにこんなにも側に居たいと望む様になったのは、あの時みたいにたった一人で泣いて欲しくないと思ったから…一人で何かを背負っているのならば、それを分けて欲しいと思ったから…。 言葉無くとも、その笑顔を守れるのならば、どんな事でもしてあげたいと思うようになっていた。
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