居酒屋 ロック

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「マスターごはんある!」 「おぉ お前のために残してたぞ」 無愛想な丼に 詰め込んだご飯 うえには 筋子が丸ごと一本 鷲掴みで 甘エビを丼へ 「これも 食え!」 深夜になると 仕事帰りのホステスと馴染みの客が10名も入れば 満席 強引にも入ってくる常連客に 「あとで来い!」と一喝 いつもの光景だ 一瞬 店の空気が変わる サングラスに皮ジャン 颯爽と狭い店に入ってきたのは 常連の晃だった 「あっ!カズちゃんだ」 「よぅ!兄貴 待ってたよ」マスターも今までとは違う口調だ 店名のロックは ロックンロールから そして カズちゃんは ロック歌手の Kazuya から 晃は ロックでは Kazuya で通っていた 一人の客がKazuya に席を空けようと立ち上がる 「悪いね」と座る 別の客が ビールを差し出す 冷えたジョッキには 氷が入っている これも いつもの光景だ カウンターの端に座っていた里花も軽く手を振った 「指 どうした?」 「あー これ 爪剥がれて」 と 里花が右手の包帯を晃に向けると同時に 晃が近寄って来た 「蟹 食えないだろう」と目の前のタラバを手際よくさばき始めた 「兄貴 さすがだねえ」 すかさず マスターがおだてる 「やっぱり カズちゃんはちがうな」 「優しい ー 」 「カズちゃん 私のもしてぇ」 酔ったホステスに晃は一言 「自分でしろ」 その光景を見ていたマスターが 「当たり前だろ 里花さんはお前たちとは ちがうんだよ」 「ほら 飯でも食ってろ」 これは いつもの光景ではなかった カズちゃんがこんなことをするなんて あり得ないことだった
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