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電車でいつも一緒になる女性がいる。
彼女は何時もドア付近の座席に座り、黙々と本を読んでいる。その本はブックカバーがかけられており、何を読んでいるかを把握するのは難しかった。
その女性は綺麗な黒髪をまとめる事なく下し、簡単に済ませたメイクが光る端麗な顔立ちをした女性だ。
そのオフィススーツと知的な表情が、俺の視線を釘付ける。
そしてその女性は俺が降りる鶴里駅で共に降り、俺が乗るバスに一緒に乗り込む。
家が近いのだろうか――と思ったが、住宅街とは程遠い場所で降りて、そのままどこか歩いて行く姿を、俺はずっと眺めながらバスで揺られていた。
――俺はその女性の姿に一目惚れした。
その凛々しい顔立ち、知的な姿。
そして、時々本を読んでいる時に見える微笑んだ表情が、俺の胸を揺さぶってくるのだ。
――今日こそ、彼女の後ろ姿をずっと見続けていたい。
俺は、何時もなら降りない、名も知らないバス停で、その女性と一緒に降車していた。
去っていったバスの姿を見ながら、俺は歩き始めた女性の背を、少しだけ離れて追いかける。
――話しかけよう、話しかけようとしていても、話題が何も思いつかない。
もどかしい気持ちを抑えつつ、俺は彼女の背を追いかけていた。その後ろ姿を見ているだけで、俺はもう満足しかけていた――
その時だった。
彼女は、大きな建物の前で歩を止めて、その建物の中に入っていった。自動ドアが開いた瞬間――耳を劈くような音が、俺を襲った。
ここは――
「パチンコ屋……!?」
後に知ったことだが。
俺が初めて恋した女性は……パチンコジャンキーだった。
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