スピーカーを持った少女

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『サラリーマンの皆様ー、毎日毎日お仕事ご苦労様です。安い給料で残業続きの毎日、大変でしょう。会社で上司に怒鳴られ、家に帰れば、妻に嫌な顔をされるんじゃありませんか?そんな人生楽しいですかー?』 少女が叫ぶと同時に近くを歩いていた者は一斉に耳を塞いだ。咄嗟に塞いでしまう位の声量だった。 『主婦の皆様ー。毎日毎日、家事ご苦労様です。安月給の冴えない旦那の為に、掃除、洗濯、料理、子供のお守りの毎日。そんな人生楽しいですかー。』 近くの者が耳を塞いで少女から離れようとするのに対し、遠くの者は歩みを止めて、怖いもの見たさで少女を見つめた。以前として、少女は続ける。 『子どもの皆様ー。毎日勉強ご苦労様です。なんのためになるのか、よく分かってもいない勉強を親にやらされる日々。学校行って。塾行って。寝て目が覚めたら学校行って。そんな人生楽しいですかー?』 少女が叫んでいると、遠くからパトカーのサイレンが聞こえて来始めた。少女は関係無いと叫び続ける。 『皆様、楽しそうな人生を送っていらっしゃいますね。私は安心しました。でも、私は絶対そんな人生ごめんですがねーーーーーーー』 少女の声を拾い切ったスピーカーは、最後の仕事にと、少女の笑い声を拾った。 スピーカーから少女の笑い声が鳴り続けた。泣きながら笑い続ける少女の声が鳴り続けた。 騒がしい真夏の交差点に、少女の笑い声とサイレンの音が一層騒がしく響き続けた。
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