クジ運

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 政府としては、立場の弱い者に親善大使の役を押しつけたかった。しかし、その者は抵抗してマスコミに人権侵害だと暴露するぞと言い出した。政府の人間は困った。誰を宇宙人と一緒に行かせるべきか。悪い言い方をすれば、生贄を誰か一人選ばないといけない。宇宙人と一緒にいく地球の親善大使。それが、決まらないと宇宙人はいつまで経っても地球にいることになる。  各国の代表者が何度も議論を重ね続け、ようやく出た案が、公平という理由で、全人類がクジを引き、コンピューターがそのクジ番号を無作為に選出するという方法であった。それに選ばれた人間こそが、〈地球親善大使〉として送り出されるのだ。  こうして、選ばれたのがY氏であった。選ばれてしまった以上、抵抗のしようがない。ヘタに抵抗でもすれば、事故や病死に見せかけられ殺されてしまうからだ。生きて帰れる保証はなかったが、少しでも延命したいY氏は宇宙親善大使の大役を受け入れるしかなかった。  Y氏が宇宙に飛び立つ日は、地球を上げてのお祝いだった。まるで、戦地でも送られる兵士のような扱いだ。実際、Y氏は死んだも当然の扱いを受けていた。実際、今日という日を『地球親善大使の日』と称して、Y氏を英雄として亡くなった日とし扱おうとしていた。  Y氏は悔しがったが、もし逆の立場だったらということを考えると、文句は言えず黙っているしかなかった。どんな形であれ、Y氏は今や地球の代表者である。相手の機嫌を損ねるような真似はしてはいけなかった。  宇宙船に乗り込むと、Y氏は少しでも相手の宇宙人の姿を見ないようにと目を伏せるのだった。  そんなY氏の姿を尻目に、宇宙人は宇宙船の操縦席に座り飛び立つ準備を整えていた。その間、一度もY氏の姿を見ようとしなかった。 (たく・・・。何で、俺がこんな辺境の星に調査しに行かないといけないんだ。何が、〈宇宙特別探検家〉だ。確かに、技術力や文化的な奴らが多いが、この星はダメだ。こんな醜い吐き気を、もよおすような連中が支配している星なんて、交流してどんなメリットがあると言うんだ。おまけに、一人、親善大使を連れこいだなんて、ふざけた事を言いやがって!文化人でなければ、殺したいぐらいだ!)  宇宙人はそんな事を思いながら、深い溜息を吐き、己を恨むのだった。 (俺はなんてクジ運が悪いんだ・・・)
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