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「どうかなさいましたか?」
「……あぁ、ううん」
シーマの切れ長の瞳を見つめたまま、小さく首を振る。
丁度、彼女の“耳”が再び黒髪の中に隠れるところだった。
一方、俺は適当な言葉を見つけられず、少しの黙考の末、
「その、ごめん……」
一言、気まずそうに呟いた。
主語の無い不明瞭な言葉だったが、聡明な彼女は、それだけで俺の言わんとするところを悟ったらしい。
一瞬だけ、微かに驚いたような顔を浮かべた後に、俺の目を見つめたまま、ふわりと微笑んだ。
「大丈夫ですよ。相変わらず、レオンさんは優しい方ですね」
一拍の間を置いて、
「確かに、今までにも辛い事はありました。ですが……」
彼女はそこで、プラットホームの方を一瞥した。
そこには、今まさに『イングラム』行きの列車が入って来たところだった。
その様子を、ルキとロキがいかにも興味津々といった趣(おもむき)で見つめていた。
彼女は視線を俺に戻すと、
「私が半妖だったおかげで、私はあの子達と、チーフと巡り合えましたから」
はにかみながら、白皙の頬を仄かに赤く染めて言った。
「シーマ……」
「さぁ、参りましょう。レオンさん」
彼女は照れ隠し気味に早口に言うと、ホームに向けて歩き出した。
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