出発前日

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       1 暮れ泥(なず)む夕陽が差し込む教室の窓辺で、終業のチャイムを聞き流しながら、俺は隣の席に腰掛けている女子生徒に話し掛けた。 「それじゃあ、行こうか」 俺の発した短い言葉に対し、彼女は軽く居住まいを正しつつ頷いた。 「はい。それでは参りましょう」 鈴を転がしたような可愛らしい声音が、俺の鼓膜を揺さ振った。 彼女、シーマ・ルーベルトは長机から自らの用具を取り出すと、素早く鞄に詰めていく。 そしてその作業を終えると、彼女は椅子から立ち上がると腰まで届く艶やかな黒髪を掻き上げつつ、長い睫毛(まつげ)に縁取られた髪と同系色の、切れ長の黒い瞳で俺を見据え、柔和に微笑んだ。 それを見届けると俺も自らの鞄に手を伸ばし、椅子から立ち上がった。 丁度“今の俺”と背格好が同じくらいの彼女の隣に並ぶと、俺達は共に教室の出口に向けて歩きだした。 三々五々、同じように出口へと向かうクラスメイト達の合間を縫って教室を後にすると、魔法戦士科の教科棟を抜けて、更に渡り廊下を通ってロト魔導学院の本棟へと入る。 広々とした、見馴れた吹き抜けのホールに足を踏み入れると同時に、俺は小さくため息を吐いた。 「はぁ……」
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