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それから瞬く間に隊士達の健康診断が始まった。
身体を見て松本先生が診察し、山崎さんがそのお手伝いをしている。
怪我をしていて処置が必要な人には松本先生が処置して、傷みに身を捩る隊士を山崎さんが力強く押さえつける。
私は松本先生の指示されるがままに綺麗な布や水を運んでいた。
そんな雑用らしきをしているとき、チラリと盗み見た松本先生の病状が気になっていた。
ごく稀に先生が片眉を上げる時があるのだ。
幹部の方では平助くんと沖田さんの時に。
数名に対してそんな反応を見せていたのだ。
「…で?咳はどれくらい続いているのかね」
先生の問いに「十日くらい…かな?」と首を傾げながら沖田さんが着物に腕を通す。
それを用紙に書き込みながら小さく息を吐き出す先生に違和感を感じた。
何となくだけど、悪い予感しかしない。
私は先生と沖田さんを一瞥し、その勘が当たっていないことを願い、布を取るため再び広間を後にするのだった。
ーーーーーーーーーーーーーー
布を物干し竿から数枚取って、広間へ戻る途中裏庭で沖田さんと先生を見かける。
盗み聞きはよくないけど…。
私は声もかけず、二人に気づかれないようにソッと身を隠しながら話を伺った。
だけどそれはかなり衝撃的な内容で。
この話を聞いてしまった先程の自分を恨みたくなってしまうほどの内容だった。
「今すぐ新撰組を抜けて療養すべきだ、沖田くん。」
「それは出来ませんよ。死ぬまで僕はこの新撰組に居るつもりですから」
「今君の身体に巣くっているのは本当に命を奪う死の病なんだぞ!?」
「ー…知ってますよ、自分の身体ですから。それでも僕は此処に居たいんですよ」
そう言って口元に笑みを浮かべる沖田さんを先生がつらそうに見詰める。
そうだ。
沖田さんの死因は戦いでの戦死ではなく病に侵されて命を落とすのだ。
病名は確か結核。又の名を労咳。
江戸時代では"赤の病"とも呼ばれ1度かかると治療の術はない不治の病。
それが、沖田さんの死因ー…。
その事実を思い出して背筋がゾクリと震えた。
山南さんの死から忘れようとしていた悲しみが大きな波となって、私の心を支配していったー…。
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