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沖田さんが労咳ー…。
現代では治療法もあり、ほとんどの人は命を落とすことなく直っていく病気なのに。
今目の前にいる沖田さんがその病気で亡くなるなんてー考えたくなかった。
150年という感覚的に長いのか短いのかわからない時間がこんなにも違いをもたらしているとは思わなかったのだ。
二人の話はいつのまにか終わっており、先生が「無理はするな」と言う声と共にその場を去っていく。
逆に私は離れることが出来なくなっていた。
蔭が一つ、近づいていると分かっているのに関わらずー…、
「盗み聞きはよくないなぁ?」
ー沖田、さん…
「なんて顔してるのさ、全く…。ほら、こっちにおいで?」
「少し話そう」と付け加えて沖田さんが私の手首を握ったまま長椅子へと手を引く。
私達はそのままの状態で腰を降ろした。
「瑠璃ちゃん、さっきの話何処から聞いてた?」
ただ真っ直ぐ前を向いてそう私に問いかける沖田さん。
その視線の先をたどりながら何と答えようか迷っていたが目の前には何も無くて正直に答えることとなった。
ー松本先生が新撰組を離れた方がいいって言われていた辺りからです。
「じゃあ病のことはーって、その顔見たら分かるかぁ。瑠璃ちゃん、知ってたんだね?」
ー今まで思い出すことが出来ませんでしたが。と付け加えて小さく頷く。
それからいくつか沖田さんに聞かれて私はただ俯きながら頷くしかなかった。
「これで最後。僕ってさ、武士として死ねるの?それとも…病に敗けて死ぬの?」
その言葉には流石に頷くだけという訳にはいかなかった。
顔を上げて沖田さんの目を見る。
その瞳が憂いを含んでいるようで…。なんと答えていいのかわからなくなった。
時間にして僅か数十秒程度。
この話を切ったのは意外にも沖田さんからだった。
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