武士でなくとも仕える主君を持つ。

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八木低に戻った近藤たちは、一室に集まり、今後の策を練り始めた。 「まずは人を集めるべきだ」 近藤、土方は、中身を揃えることが先決と考えていた。 「いや、ここは我らの名前を決めるのが先だ」 如何にも見てくれにこだわり、器を用意する方が先決だと、芹沢は言った。 「しかし、今のままでは、わずか十三人。名前を持つほどの集団ではない。」 いつもは近藤に発言を任せている土方が初めて明言した。 「確かに、何か行動を起こすには、数が少なすぎる。まずは人。次に名前。これが理にかなった順番ではないでしょうか」 いつもの様に涼しい顔をした山南の言葉の説得力に、芹沢はうなずくしかなかった。 「よかろう。では、如何にして集めるのだ」 芹沢は不機嫌をあらわにして、しかし冷静な振りをしながら山南を睨んだ。 「取りあえずは、浪士組の中に残留希望者がいないか、手分けして訊いて回るのがいいのでは」 土方は横目で芹沢を見ながら提案した。 土方がこの場で敢えて発言したのは、主導権は我らにあると示しておきたかったからである。土方の段取りでは、近藤を頭に置き、その下に自分達を置くことで、磐石さを形付けるという、先の先を見越した計算だった。 「近藤先生、今は浪士組を利用しましょう。でなければ、知らぬ土地で仲間を集めることはできません。」 土方は決定権は近藤だと言わんばかりに、近藤を見て言った。 「芹沢先生、まずはそういたしましょう」 近藤は土方に比べて、少々頭が堅い。しかし、阿吽の呼吸で土方の求めるものが分かってしまう。二人には絶対の信用があった。 これには芹沢も納得せざるを得なかった。 「では、今夜は遅いので、明日の朝にまた話し合いましょう」 近藤の言葉でこの日は解散となった。 その時、沖田は部屋の隅で壁にもたれて、うとうとと眠りに落ちていた。沖田にとっては、名前や人数の事よりも、剣の腕を試すことが重要だった。その姿を見た井上は 「試衛館塾頭とは言え、総司はまだ子供ですね」 そう言って、沖田の抱えた刀を外し、布団を掛けてやった。回りの者は皆、そんな子供らしさを持つ天才を見て、微笑んだ。 そして静かに壬生の夜は更けてゆく。 十三の未来を照らすように、月が見下ろしている。
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