プロローグ

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「何だか、今日は暖かいなぁ。久しぶりに多摩の風の匂いを思い出したよ。」 空を見上げ、呟く肩は、ガッシリと力強く、武士ならば、誰もが憧れる体格に恵まれ、鋭い目を細める男。 今じゃ、泣く子も黙る、新選組局長、近藤勇。 「何だかんだ言って、ここで春を向かえるのは3度目になるか。」スラリとした、美形の顔立ちには不釣り合いな、腰に差した刀に左肘を乗せて鴨川を眺める男。新選組鬼副長、土方歳三。 二人は数々の人の命、そしてその終焉の中で、互いにぶつかり合い、認め合って成長を重ねた。時代の産物とも言える成り上がりの武士。人を斬り、命を奪い、仲間を失い、自らの手で仲間を殺し…。私欲の為ではない。総ては御公儀の為、そして自らの志を遂げる為。 彼らの心には、常にある『尽忠報國』。 それだけを頼りに生きてきた。 そんな男達にとって、この春は特別だった。清々しい顔をしていても、先日亡くした戦友の事が頭から離れていない。 「今日は四十九日だな。」 勇が空を見たままで言った。 「ああ。もうそんなに経つか。」 歳三も何となく空を仰いだ。 「あの人がいたから、ここまで来れたと、俺は今でも思っている。」 「山南敬助…。これからも、彼の力に助けられることになるだろう。そうは思わないか。」 こんな話が出るのは、春のせいか、四十九日のせいか…。この二月に禁令に背いたかどで切腹した、新選組総長、山南敬助。面倒見が良く、博識で温厚な人だった。争いを好まず、いつも書物を眺めていた、優しげな男。体が少々弱い意外は、非の打ちようのない男だった。 「今夜は仲間を集めて呑むか。試衛館の頃を思い出しながら。なぁ、歳。」 「そうだな。」 二人は鴨川を背に、屯所のある西本願寺へと、ゆっくり歩き出した。
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