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無言のまま、二人は四条通りを西に歩く。
屯所に戻るには左に曲がらなければならない道を、何故か真っ直ぐ歩く。まるで決まり事のように。
二人が足を止めたのは、とある寺の前だった。『光縁寺』ここは彼らの亡くなった仲間が眠る寺。そして山南の家紋と同じ紋であることから、山南自身がよく訪れていた寺。二人の知らない山南を知っている寺だった。
もちろん、山南もここに眠っている。
二人は小さな墓石の前で静かに手を合わせた。その墓石には、寺の住職が供えたものなのか、それとも、あの日、出窓越しに別れを交わした明里が訪れたのか、煙の残る線香と、花があがっていた。
歳三の頬に一雫の涙が流れた。
勇はそれを見ないふりで歳三の肩を抱いた。そんな二人の姿に、遠くで手を合わせ、一礼して去る青年がいた。山南を兄と慕っていた、そしてその介錯を引き受けた、若き天才剣士、沖田総司。彼もまた、山南の死に、悲しみを隠せない一人だった。
青白く、あまり精気を感じられない顔は、結核を患っているせいだ。
遠からず、自分の命が終わることを見据えた目は、生き急いでいるようにも見える。
そして…静かに夕暮れが京の都を暗闇に誘う。
空が紅く染まり始めた。三人の男にそれぞれの問いかけを残すように、紅く染まってゆく。
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