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ペリー来航から、世の中は狂い始めていた。近藤が天然理心流宗家四代目を襲名した頃、江戸や京の町では、過激な事件が多数起きていた。
尊皇、攘夷、倒幕論。志を持った全ての者たちは、各々の正義を振りかざし、刀を交えることが日常のようだった。京の町では天誅と称する人斬りが横行していた。
特に近藤たちの住む江戸では、安政の大獄により、手酷く弾圧された水戸藩の脱藩した浪士により、万延元年(1860)三月三日、江戸城に登城する途中、大老、井伊直弼が暗殺される事件が起きた。
そして文久二年四月二十三日にはの寺田屋騒動。八月二十一日には生麦事件と、世の中は荒れ果てていた。
そんな中、試衛館の面々が夢にまで見た武士としての道に、光が射した。
『志ある者たちを広く募り、将軍の御上洛に合わせて上京し、浪士達を将軍の警護に役立たせる。』
この知らせが彼らの運命を変えた。各々が上京に遥かな夢を馳せていた。唯一、浮かれていたのは、若き天才剣士、沖田総司だった。時勢などには興味はなく、ただ、剣術修行にでも出るかのように、太い木刀を振っては、京に行ったら、どんな強い者と闘えるのだろうと、近藤たちに話して止まなかった。
そして、いよいよ二月八日、近藤たちは小石川伝通院から京に向けて出発した。
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