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隠されていた一文は、
『我々浪士組は、ただ幕府の世話で入洛したのではなく、金子なども支給されておらず、国家の大事と見て皇の御心の尊攘を大義として働き、万一これを妨げるような者がいれば、皇の御為に取り除かなければならない』
といった意味で、つまりは、我々が仕えるべきは、幕府ではなく皇であると宣言する内容だったのだ。
これには浪士取り扱い役の鵜殿鳩翁も驚いた。清河にしてやられたと、ここで初めて悟ったのだ。
近藤たちはまだこの事実を知らなかった。
その時がやって来たのは、六日後の二十九日だった。この日特別に御所拝観が許され、一同は孝明天皇が住む御所の散策に感激を隠せなかった。
「ここに皇が住んでらっしゃる。」
「この場所も皇はお歩きになられたのでしょうか。」
などと口々に話していた。
ところが、感激も束の間だった。
その夜、浪士組全員が新徳寺に集められたのだ。
近藤は、集められた時間帯から、一抹の不安を覚えた。
そして、
「先日皆に署名してもらった健白書は、無事学習院に提出した。それにより、この度、我ら浪士組は、速やかに江戸に戻ることになった。」
清河は声を大にして語る。
「いつ何時異国が攻めてくるやもしれん。江戸表に軍艦が押し寄せてくるという噂もある。ここは一度江戸に戻り、攘夷の為に尽力したい」
場内のどよめきもよそに、清河はまくしたてた。
不安が的中した。
我らは将軍御上洛の身辺警護の為に、遠路遥々やって来たのだ。
誰もがそう思っていた。しかし、江戸には家族を残して来ている者も多く、反面では、やっと戻れると、安堵する者もいた。
「お待ちください」
意を唱えたのは近藤だった。
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