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「納得がいきません。我々の目的は将軍警護のはず。上様が御上洛されてもいないのに、江戸に戻ることはできません。働きを示してからでなくては、戻るわけにはいかないのです。」
近藤は無我夢中だった。江戸には妻と生まれて間もない娘を置いて来た。道場すら妻に任せて来たのだ。それだけの犠牲を払ってでも御公儀の役に立ちたいと志を決めて来た近藤は、曖昧な説明に納得するわけにはいかなかった。
勿論、近藤と志を共にする土方たちも同じ思いだった。更に、同宿の芹沢らもこれに同意した。
話し合いは続いたが、互いに折れようとはしない。仕方なく近藤、芹沢ら十三名は、浪士組を分離し、京に残ることになった。
近藤の胸にあった目標は崩れ去り、代わりに新たな野望の芽が顔を出したのだった。
宿にしている八木低に戻る道に、うっすらと月明かりを浴びる桜の花びらが、ゆらゆらと近藤たちを包んでいた。まるで、祝福の賛歌を歌っているようだった。
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