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雪。
三月の始め、辺りは銀世界。
空から降ってくる雪が、差している傘に当たり、サラサラと音をたてる。
積もった雪を踏む度に、独特な音が辺りに鳴り響いた。
寒さで、吐く息が白い。
雪道となった歩道を歩く僕の耳に、あの声が聞こえた。
聞こえるはずのない、あの声が……。
『槙村!』
思わず振り返るけど、誰もいない。
そんな僕を笑うかのように、立ち並ぶ並木のうちの一本の木の枝が、重たくなって支えられなくなった雪を地面へと落とした。
今年も、こうして受け取っている。
恋文を……。
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