―記憶(少女)―

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「どうして……」 そう呟くと、母は幼い娘の前に崩れるように座り込んだ。 広い子供部屋に、母と娘が二人。 部屋の窓は閉めきられ、しっかりとカーテンがかかっている。 そこから透けてぼんやりと差し込む外の光だけが、唯一の光源。 その薄暗い部屋の中では、あり得ないことが起こっていた。 ――物が、浮いている。 ぬいぐるみも、絵本も、洋服も、様々なものが浮いている。 母は、静かに顔を上げた。 父親と母親の良いところだけを取って合わせたような、可愛らしい整った娘の顔がそこにある。 「お母さん……?」 娘も幼いながら、今の異様な状況を感じているようで、心配そうに首を傾ける。 しかし、母は娘から目をそらし、誰に向けるでもなく言った。 「金持ちの男と結婚して、大きな家に住んで、男が逃げないように子供も産んで……ここまではよかったのよ」 娘は、きょとんとして母を見つめる。 まだ小学校にもいかない歳なのだ。 母の言うことが理解出来ないのも無理はない。 ――でも、彼女は賢い。 母の放つ妙な雰囲気に、気が付いていた。 「夫が死んで、娘も狂って。私、どうしたらいいの?ねぇ、奈月……」 自分の名が出て、娘――奈月はピクリと体を震わした。
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