―記憶(少女)―

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二人の横を、くまのぬいぐるみがかすめていく。 母はそれを恨めしそうに目で追いながら、更に続ける。 「夫が死んでから、私達が世間にどんな目で見られてるか、知ってる?可哀想とか、気の毒ねとか、もう―――もう、いい加減聞きあきたのよっ!!」 母が急に声をあらげて、奈月の肩を両手で掴んだ。 奈月が顔をひきつらせる。 「い、痛いよ、お母さん……」 そんな娘の声など聞こえないかのように、母は叫ぶ。 「同情なんか要らないのよ!私は、ただ、お金と、地位さえあれば……なのに、変な子供がいるなんて知れたら、周りにどう思われるか……何て言われるか……!」 奈月が目を見開いて硬直する。 母親の絶望に淀んだ視線に、身体をえぐられ、心を刺される。 ―――殺されると、直感で思った。 「いや、いやぁぁっ」 何とか母の手から離れようと、必死にもがく。 しかし、母の脅威的な力から逃れることはできず、そのまま押し倒される。 「あんたなんか……あんたなんか……」 その手が、スルスルと奈月の首まで伸びてくる。 「生まなきゃよかった」 囁くような声と同時に、グッと首を締め上げられる。 「―――!」 もがいても、もがいても、母の手は離れない。
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