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河村「呼び方はそれであっていますよ? 試験体13号」
出来るだけ、実験をしていた頃と同じような口調で話しかける。
敬語で。
でも、こちらの方が立場が上であることを明確にするような言い方で。
栞「試験体13号.....?」
自分の名前は海堂 栞であり、そのような名前ではないと心のなかではわかっているが、無視できない。
河村「そうです。それが貴女の名前でしょう?」
栞「ち、違う.....! ボクは栞だっ!」
河村「おやおや、口答えですか? どうやらまた“お仕置き”をされたいようですね」
栞「お、しお.....き.....?」
ゾワッと。
栞自身、理由はわからないが背筋に寒気が走る。
そして。
無意識に言葉が紡がれる。
栞「いや.....だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!」
嘉山「おい! しっかりしろ、栞っ!!」
叫ぶ嘉山の声すらも、ノイズのように聞こえて言葉として聞き取れない。
なぜかは理解できないが、栞の頭の中は恐怖で埋め尽くされていた。
本能が叫ぶ、“お仕置き”だけは嫌だと。
もうすでに、理性という箍は外れ、体は本能が訴える恐怖に支配されていた。
栞「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。ごめんなさいごめんなさい許してくださいもうしませんごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
心に、体に、頭に、染み付いた恐怖は例え記憶を消したとしても完全には拭い去ることは出来ていなかった。
朱里も菜月も辰也も。
そして、事情を知っているはずの嘉山でさえ、呆然としていた。
いや、正確には呆然の意味が違う。
嘉山以外の三人は何が起こっているのかわからない、といった感じだ。
だが。
嘉山は違う。
事情を知っている。
だが、甘く見ていた。
嘉山(たったあの一言だけでここまで栞を追い詰めるのか.....!?)
今はもう、自分の声すら届かない。
栞「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
河村「ダメです。許しませんよ? “お仕置き”です」
冷酷にも、トドメの一言が河村から放たれた。
栞「あぁ.....。ああぁぁぁぁぁぁ!!」
河村はほくそ笑む。
これで敵最大の戦力は壊れた。
もう使い物になら無い、と。
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