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「そちら、よろしいですか?」
「え、ええ・・・」
男は私が座っていたベンチを指差し聞いてきた。私は男に言われるがまま、横に少しズレて席を空ける。軽い会釈をして男は私の隣に腰を下ろした。
「お孫さんでもいっしゃるのですか?」
と、男が私にそんなことを聞いてきた。初対面の男に答えてやる必要はなかったが、久々の他人との会話だ。
「いや。知らない子だ。近所の子供だ」
「そうですか・・・。ところで、挨拶が遅れましたが、私(わたくし)はこういう者です」
男はそう言うと、自分の名刺を差し出してきた。
「神薬会社営業部『天野衛』・・・。営業マンですか?」
「一応そうです」
どうも馴れ馴れしい男だと思っていたらセールスマンか。この天野という男に怪しいモノを買わされる前に、この場を立ち去ろうと思い、立ち上がった。
「若返りたくありませんか?」
天野は私が立ち上がるのを見越していたらしく、特に止めようともせずにそんな呟きを漏らしてみせた。
『若返り』。その言葉に私の動きは止まった。
「若返り・・・。冗談でしょう?」
「冗談ではありません。これは、真剣な話です」
天野は私に視線を合わせることなく、ただ前の方を向いたままの姿勢で言う。その態度から、どことなく、彼は普通の人間とは違う、独特の雰囲気を感じられた。
そして、いつのまにか、私はベンチに座り直していた。
「弊社では、ある特殊な製法で人間を若返らせる薬を開発することに成功しました」
「人間を若返らせる?そんな話、ニュースでも聞きませんよ」
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