プロローグ

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「おーう、おかえりー亜優」  わたしは自分の部屋のドアノブを掴んだまま、半分口を開けてその場に突っ立っていた。  手に持っていた小さなミカンが、ダスッ、と鈍い音を立てて床に落ちる。  ころころ、と部屋の中へと転がったオレンジ色の塊を、大きな手がヒョイと拾い上げた。 「お前、何やってんだよ。 食べ物を粗末に扱うなって、いつも人には言うくせに」  ローテーブルの前であぐらをかいていた和久井俊輔はわざと咎めるようにそう言って、勝手にミカンの皮をむき始めた。  中から現れた柔らかな身を取り出し、ふとこちらを見る。  何やってんの、そんなところで。  形の良い黒目がちな瞳がそう問いかけていることは読み取れたけれど……。  ─それはどう考えても、こっちのセリフだ。
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