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「─おう、亜優」
俊輔はよくそうしていたように、自分の机の上にお尻を乗せ、窓枠に足をかけていた。
そしていつものように、並びの良い自慢の白い歯を見せ、笑った。
「ずいぶん遅せえな。今までかかったの、ブラバン」
「……うん……」
目元にじわりと熱を感じ、わたしは奥歯に力を入れてそれを堪えた。
鼻の奥が、ワサビがしみた時みたいに痛い。
「終わってから、楽器の手入れ、手伝ってて……」
わたしは意識していつもと同じ笑顔を作り、返した。
少し声が震えたけど、たぶん不自然なほどではなかったはずだ。
いつものように、当たり前のように。
何かひとつでもズレたら、きっとまた昨日のように俊輔が消えてしまう。
それが怖くてたまらなかった。
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