忘れてしまいそうな距離

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今日は突然、初春並みの暖かさになった。 汗っかきとしては辛い。 素直に汗を滲ませる細胞で、ワイシャツが汗を吸って肌に纏わり付いているのが分かる。 更に私は花粉症持ちで鼻が詰まってしょうがない。 くそっ、3月などロクな事はない。 ひとりでこうした事を声にすると、周囲に気味悪がれるのは周知の事なので、心に中でぶつぶつ言う癖が自然と付いた。 腹黒というのはこういう物なのだろうなと自覚する。 今日も学校だ。 明日も学校だ。義務教育期間が終わるまで、私はこの坂を何度でも下る。 高校へ進学しても、大学に受かっても、何度でも。 そんな果てしない感覚に、この坂はさせる。 馬鹿みたいだ。普通の人はこんな事を考えながら、登校等しないであろうに。馬鹿みたいだ。[馬鹿,阿呆,醜女,不細工,死ね]以外の罵倒の仕方を知らないクラスメイトと笑える私なんて。 私をこんな冷めた女にしたこの坂と、晃弥[こうや]を、私は許してやらんっ。 向かいからやってくる30代の男性の目は、私の事を前方の安全確認として坂を登っていく。 大丈夫、私を変人として認識してない。 ちなみに私は変人だ。 快楽主義に今を生きることが出来ない。 クラスメイトみたく今を楽しんでいても、未来、大人になれば記録はリセットされる。 なら、今を大人になるまでの必要消費時間として生きれば、無駄な体力は使わなくて済む。 そんな歪んだ思考を持った私、多田実花佐[ただ みかさ]が、この物語の主人公を務めます。
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