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だから私は、この彼の死んだ海で息を止めて飛び込む。
空いた穴が埋まらなくても飛び込み続ける。
だって、こうでもしないと自分の中から彼が無くなってしまいそうで怖いから。
ただ、彼の事だけを考えて足を踏み出し、真っ青な海に爪先からダイブする。
真っ白な飛沫は、まるで私を天国から迎えに来た彼の羽根のよう。
口から漏れて儚く消える泡は、まるであの日の彼のよう。
この海は、全てが彼のようで。
愛おしくて、切なくて。
「どうせなら、そのままその海の中に居ろよ」
飛び込むたびに蘇える、彼の声。
いる。
いるよ、ずっと。
海の中で呟く。
届かない声で、何度も何度も。
好き。
大好き。
海の中で告白する。
彼への愛を、何度も何度も。
今日も続く、無酸素ダイビング。
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