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(・・・チチチチチ)
遠くで鳥の声が聞こえる。
「ん~・・・もう30分だけ・・・」
『彼女』はおおよそ人が寝るような場所ではない・・・見たままを、そのまま表現するならば『馬小屋』で藁の束を抱きながら惰眠をむさぼっていた。
よく見ると、そこには小人族(ポークル)の姿もあり、一応、藁を硬く縛って敷き詰めたベッドのようなものはいくつか存在していた。
そこで彼女はひたすら幸せな眠りの時間を堪能する・・・はずだった。
しかしその眠りは強烈な怒号で妨げられる事となった。
『『あんたたち!!タダで寝泊りしてるごくつぶしのくせにいつまで寝てるんだい!!さっさと起きな!!!』』
宿屋の女将の怒声、そして遠慮の無い蹴りでケツを蹴られて宿から叩き出される冒険者たち。しかし、一人だけまたく意に返さない者が一人。そう、『彼女』である。
ケツを蹴られて、起きるかと思いきやそのまま転がって、壁にぶつかった先で眠りを続ける。
「・・・レナ!さっさと起きろって言ってるだろ!!!!」
怒りの女将の一撃は今度はケツではなく、みぞおちを見事に捕らえた。
「・・・!!!!!!ご、ゴフ・・・・オロロロロロ」
レナと呼ばれた冒険者の朝は、こうして藁の寝床に吐き散らかすところから始まったのであった・・・。
「・・・宿屋のクソ婆、いつかロストさせる。絶対させてやる・・・」
おおよそ朝には似つかわしくない呪詛の声を呟きながらレナは宿屋を後にしていた。
「おや、レナちゃんおはよう。ワンダさんに叩き起こされた・・・にしてもひでぇ顔だな」
果物屋のオヤジの言葉に、気の無いそぶりで手だけ上げ、
「おはよー・・・あのババア、朝っぱらから可愛い乙女のみぞおちにケリぶち込んだのよ。本当に信じられない・・・」
「そ、それはさすがにえげつねぇな。どうりでなんかにおう・・・いやなんでもねぇ。まあこれでも食って元気だしな!」
オヤジは手近にあったリンゴをレナに放り投げた。
「っと。いいの!?オナカ空いてたの~~!・・・お金なら無いわよ?」
その返事にオヤジは苦笑しながら
「いいって、出世払いってことで」
と手を振った。
噴水の脇で、ボリボリとリンゴをかじりながら空をボーっと見つめるレナ。
「・・・はぁ。貧乏って無常ね・・・」
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