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名残惜しそうにも見えた甘美な糸が先生の唇と僕の唇を繋ぐ。
「はあ、はあ、っ」
整わない息を必死に吸ったり吐いたりを繰り返しながら恥ずかしさと状況を飲み込めない複雑な心境に襲われる。
不思議と気持ち悪さは感じなかった。
顔をあげ先生を見ると羞恥心が煽られ顔から火が出そうになり、思わず目をそらす。
そらした目線の先には艷しく親指の先で拭われる先生の唇が見えた。あまりに官能的な姿に顔を伏せると影が近づく。
「源田、こっち、向けよ。」
そっと顎に添えられた指に無理矢理上を向かされてしまう。先程から整理しきれない心と煽られ続ける羞恥心からうっすらと涙目になりながら先生を見つめる。
「嫌だ、よな。ごめん、な。」
涙目の僕に切なそうな困ったような表情を浮かべると、先生はふと僕を解放した。
「せん、せ?」
何を言えば良いのか分からずどう反応したら良いのかも分からず、ただ先生の表情に思わず声をかける。
「ごめんな、源田。じゃあ、な。」
先生は机に置かれたファイルを手にすると、悲しげに笑みを浮かべた。返事をする間もなく頭にポンと手を置くと僕を振り返ることなく先生は教室を後にした。
さっきのことがまるで嘘であるかのように冷めていく熱。
1人残された僕は、なんとも言えない寂しさと、先生への疑問が渦巻いた。
先生の言葉、先生とのキス、そしてあの悲しそうな笑みが頭から離れない。
好きだと言った先生の甘い囁き声がまだ耳のなかを響いているようで、我に返ると再び鼓動が早まっていく。
「せん、せ。」
ふと呟くと熱くなる胸。
僕の中で何かが変わったのがわかる。
強引な口づけも嫌悪感などなかった。
「そんな、先生を、なんて。」
自分でも理解に苦しむ気持ち、先生ということも同性ということもわかった上での愛しさと苦しさが胸を渦巻く。
離れていく腕に寂しさを感じた。
去っていく後ろ姿を追いたくなった。
これは、もう1つしか説明がつかない。
「僕も、好きだ、先生が好きなんだ。」
まだ遠くには行っていない。
追いかけたら普通の先生と生徒ではいられなくなる。
科学準備室の扉の先にある禁忌の道。
僕はその扉に向かった。
その先にいる愛しい先生を求めて。
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