秋森純也

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父の顔は写真の中でしか知らない。健康的に日焼けした浅黒い肌をしていて、両手に赤ん坊を抱き、顔をしわくちゃにして笑っている。 喜色満面。なかなかどうして、何処にでもあるありふれた幸せだというのに、写真の中の父は、俺にこれが幸せだと訴えかけてくる。 単純に、羨ましかった。 その中にいる一人が当時の俺だと理解していても、実感は湧かない。 処か、まるで歴史の授業を受けている気分だ。こんな時代があったと。 母が何故父と別れたのか、その理由は知らない。探る気はない。 ただ、子どもの頃、母の引き出しからこっそり持ち出したこの写真を、今も大事にとっていて、ふとした瞬間に眺め、涙を堪えている。何故俺はそんなことをしているのか、自問自答したところで答えが出たことはない。
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