憧れを探しに

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主な荷物は今後世話になる下宿先に送った。何でも其所の家の者は母の親戚であるらしい。空っぽになった部屋は、こんなに広かったかと思えた。あの日以来、母とはまともに話してはない。その必要もないだろう。あと二日もすれば、薄く汚土隙間だらけの土壁と、自己主張の激しい窪んだ床のボロ屋ともおさらばなのである。特に思うことなどない。環境が変わった所で、どうせ中う簡単に中身等変わらないのだから。 受験の時とは違い、旅立ちの日は夜行列車での出発となった。 「純也」 改札口の手前まで終始無言を貫いていた母が俺の名を呼ぶ。 「なんだ?」 「風邪、引かないでね」 それだけ言うと、母は俺に背を見せゆっくりと消えていった。 相変わらず、だ。弱い。弱い女だ。すぐに泣く。それが一番俺にとって不愉快であるというのに。 改札を潜る。期待なんてしていない。これからどうなるかなんて、不安すら抱いていない。ただただ無感情に列車の中へと入り、何も考えずに徒に時間を浪費していく。無論、それはこれからもだ。
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