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何か記録として残しておきたく思い、鉛筆を手に取ったのだ。書いておかないと――僕の記憶は消えて行くから。あの花のことも、全て、消えてしまうから。
「持って5年半」
医師にそう宣告された時、僕は特に驚かなかった。その時はすでに僕の記憶は友達を忘れるほどにまでなっていた。このまま生きていたって、どうせ僕は何もかも忘れるんだ。友達も忘れ、家族も忘れ、そして自分という人間も忘れていくそうだ。最後には、今まで培ってきた生活能力――いわば、飲食方法や着衣方法などを忘れてしまい、死んでいく。医師は、もう1つ重大なことを告げていた。
「しかし、手術をすれば治る可能性はあるんです。これから長い治療を続けて行けば、成功例もありますし、本人の意思の強さ次第だと思ってください」
医師はただ淡々と事実のみを僕に伝えた。横に家族も付き添っていて、母親はただハンカチで目を押さえ続けていた。
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