キャンバスに咲いた花ー短編小説ー

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あのね、私、実はソフトボール部なの。体格が良くないからそう見られないの。まぁ、でもいつも補欠なんだけどね」 照れくさそうに笑いながら女の子は話していた。僕はただ微笑みながらそれを聞いていた。 味気のない、何の色彩もないこの真っ白な病室に、桜のピンクと、女の子のオレンジ色と、少し病弱な青紫色が追加されたような感覚がした。僕はこの白いキャンバスに色がついたことを素直に嬉しく思った。 次の日になると、僕は女の子を忘れていた。当然のことだ。僕は新しい記憶は1日ほどしか持たない。何度も何度も定着させて、ようやく1週間ほど覚えることができるのだ。 「はじめまして、こんにちは」 僕は女の子にこう言ってしまった。女の子は目を丸くして、口を半開きにして、僕を3秒ほど見つめた。僕には何のことか分からず、女の子が僕を見て驚いたことに対して不思議に思い、女の子のことを失礼な人だとも思ってしまった。女の子はすぐに状況を理解したのか、僕に対して「はじめまして」と言ったのだ。
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