1.月は青く

2/10

47人が本棚に入れています
本棚に追加
/912ページ
十月二十九日、夜。 NOISEの崩壊から一か月以上が経過していた。だが、実感は無い。 それもそうだ。 今いる場所はあまりにも無機質だ。やたら光沢のある資材で出来た床、壁、天井は少し透けた白一色だ。大理石に似ているが違う。触れると冷たくとも温かいともいえない、妙な感触が肌に伝った。天井には照明が埋め込まれているのか、資材そのものが発光しているのかは分からないが、ブルーライトのような淡い、水色の光が発せられている。 時計は置かれているし、端末の時刻表示で時間は分かる。だが窓は無く、完全な防音処理がなされている為外部からの情報は一切分からない。こんな中で生活していたら時間の実感は湧かないのも必定である。 淡い水色に染められた廊下を歩きながら、アイン・アイリスは壁を見やった。薄く透き通っているが外の景色は見えない。外では何が起こっているのかは全く分からない。一か月前のあの戦闘以降、アインは外に出ていない。一度でも出ればこの場所が知られてしまう。生徒会も虱潰しに探している筈だ。外に出るのは危険過ぎた。 この場所へ案内したリントから説明は無い。この場所が何ていう場所なのかもアインはまだ知らない。 リントは話したがらないようだった。最初はアインも何度も訊いていたがリントは言葉を濁したり、話を反らしてばかりなので訊く事を諦めた。他のメンバーもリントには詮索しなかった。 しかし事情は大凡伝わっていた。 此処は普通の生徒が知っているべき場所では無いのだ。本当に限られた、極一部の人間のみが知っており、そして知っている事を知られてはならない場所なのだ。
/912ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加