1.月は青く

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アインは服の胸元を掴んだ。強く握った。 シオが羨ましかった。 あの時、危険だと分かっていて、孤立すると分かっていてシオは自らを差し出した。サンドハーストの全員を敵に回しても、仲間を守ろうと、意志を果たそうとした。 あの時の自分には出来なかった。逸早く使命に気付き、エクスビーイングとして目覚めたのに。あの時の自分は何も出来なかった。 きっともっと上手くやれたら、この状況を変えられた。シルクの願いがまた滞った。もしかしたらこのまま果たされないまま、悲劇が起こるかもしれない。 考えたくなかった。もしそうなったら、自分が生まれてきた意味が無い。無力な自分なんて存在している価値が無い。 シルクの為にならない自分に、何の価値があるんだろう。 アインは壁に頭を押し付けた。堅く瞼を閉じ、唇を噛み締めた。 じれったい。何も出来ない自分が、どうしようもない状況が。 自分の生まれた意味を果たさなければ。 時間はもうない。 このまま過ごしていたら、シルクは・・・。 瞼を通した視界の様に、未来は暗く、見えなかった。
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