二人の距離のプロローグ

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 現状。 「今日こそ好きになってもらうからね! 道也(みちなり)!」  華々しき高校生の制服を着た美少女が、堂々とした立ち姿で俺を睨んでいる。  その様は騎士道を掲げた騎士が如く。色素の薄い栗色の長髪を風に靡かせ、その長い前髪に見え隠れする大きな瞳はしっかりと俺を見据えている。  組んだ腕は発育の良い胸を持ち上げているようにも見えて、頭の中が下心半分エロい事半分で構成されている高校生男子からしては兵器である。一発喰らえば致命傷を負う事になるような兵器、全てを焼き払うロケット砲に匹敵する威力だろう。  ちなみにそれを喰らったやつらの死因は脳死と診断される。そしてその殺害方法の名は脳殺だ。おい騎士道はどうした。  俺は頭を掻きながら、脳死を避けるため視線を他所に泳がせる。目指すは遠泳世界記憶だってくらい泳がせておきたい。 「千種(ちぐさ)。今日のところは、諦めてくれないか」  深く嘆息すると、対する美少女、千種はむむむー、と、あざとい声を出す。 「道也。諦めたらそこで試合終了だよ」  もう終われよそんな試合。スラ○ダンクは時代やメディアを超えうる名作だがそれをお前が使うなよ、と言いたい。  しかし言わない。何故なら千種はそういうネタが大好きだから。  乗ったら負けだ。だから乗らない。 「それにどうせ、この後も暇でしょ?」  学校帰りで、高校では部活もやっていない俺だ。当然時間は有り余っている。 「昨日バイトだったから疲れてるんだよ」  高校生にも良い時給を払ってくれる飲食店は忙しいと相場が決まっている。しかも労働基準とか気にしない、法律を恐れない勇者が店長をやってる店も割と多い。俺のバイト先にも居るが、そんな勇者は要らない。日本の不景気をなんとかするために立ち上がるなら、相応のパーティーを組んで欲しい。村人Aを冒険に連れ出すような蛮行だ。
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