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夢を見た。
物心ついてから時折思い出した様に見るストーリー仕立ての夢。
自分の周りには凡そ人間とは思えない容姿の連中が侍っていて、跪いたり親しげに話し掛けてきたりする。
そんな連中と別れて独りきりになった自分は夜伽の相手を探しにそこらをうろつく。
どんな高嶺の花も自分の一睨みで簡単に墜ちる。ひとしきり快楽を貪り、女は自分の腕枕で寝息を立てている。そんな日々。
とても今の自分じゃ考えられない事だ。願望の現れだとしたらよほど欲求不満なんだろうな。
この夢はある時点で急展開を迎える。
自分の目の前で言い争う黒き翼を持つ男と白き翼を持つ男。どちらも王たる風格を備えている。自分なんかとは格が違う。
人間を更に堕落させる為に自分を送るのだ、と黒き王。
我が配下を用いずとも既に人間の世界は終わっている。殊更手を出す必要も無く、ただ終わるのを待てばいい、と白き王。
その言い争いを眺めるもう二人の王。一人は血色の悪い、正直何を考えているのか分からない男。もう一人は男か女か分からない超絶美形の王。
やがて言い争いは終わり、黒き王が自分を指差す。
それと同時に自分の世界が暗転し、底へ底へと落ちていく。
落ちて、落ちて――
けたたましいベルの音が意識を覚醒させる。
「夢、か………」
佐田智(さたあきら)はゆっくりと目を開ける。少しずつ朝の光量に目を慣らさないと、色素の薄い瞳に負担がかかる。
「せめて、一睨みするだけでモテモテって夢だけはなぁ…」
現実であって欲しい、と切実に願う。それほど彼はモテなかった。それほど女子生徒に忌避されてきた。
原因は彼の異様にギラついた目である。その獰猛な野獣の様な目に睨まれるだけで、女子生徒は言い様の無い恐怖を感じるらしい。曰く襲われる。曰く犯される。曰く視線で孕まされる、等々。
故に彼は校内で「ケダモノ君」と呼ばれていた。
甚だしい名誉毀損である。自分はNTR物に登場する様なDQNでは無いし、女性を襲ってまで性欲を満たしたいと一度たりとも思った事は無い。
しかるべき手順を踏んで女の子とお付き合いし、その延長でエッチが出来たらいいな、と思う極普通のDT高校生なのに。
きっとあの夢は自分に備わるケダモノ目に対するコンプレックスの顕れに違いない。
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